フェアウェル・パーティーは、競技会会場となった同じホテルの、バーを借り切って開催されました。
ビュッフェ・スタイルで、参加者は料理や飲み物を手に、各自気ままに位置取っています。料理を食べて踊り終わった空腹を満たす者、その日の踊りについてジャッジに意見を求める者、選手同士交流を深める者・・・。長い一日を終えた安堵感と、好成績を讃えあう満足感に、室内が包まれていました。
そんな中、場違いな存在感を放つ僕はといえば、部屋の隅のサイドテーブルで1人黙々とビールを飲んでいました。ジャッジに挨拶なんて出来ず、選手同士健闘を讃える和にも入れません。意地汚く料理を食べる等もっての他、敗者はただ屈辱を甘んじて受けるのみなのです。
時と共に会場のボルテージは上昇し、遂にはカラオケ大会が始まってしまいました。世界のトップダンサーや審査員たちが、次々に自慢の喉を披露します。そこはさすがに皆ダンサーで、歌いながら踊るその動きは、アドリブとは思えぬ完成度と高度なエンターテイメント性を備えていました。歌はイマイチでしたけど・・・。
ふとその時、バーの店員に連れられて2人の男性が歩いて来ました。そしてそのまま僕が立っていた脇にある、階段に消えて行きました。ああ成る程、店を借り切ったと思っていたけれど、どうやらそれは一階部分だけなんだな。そして横の階段から上の階に一般客は案内されるのだな。等々を、カラオケを聞き流しながらぼんやりと考えました。それにしても今の男性は・・・。
今しがた通り過ぎた2人組、その後ろを歩いていた男性の顔をもう一度思い浮かべて、突如僕は雷光に撃たれました。そうだ・・・いやでも、まさか・・・しかし、他には考えられない・・・。
その後は全くの上の空、世界ファイナリスト達の歌うカラオケも全く耳に入って来ません。頭の中は「きっとそうだ」「でもまさか」の繰り返し。自分の考えに確証はあったのですが、そんな事が起こり得るのかと思うと、また自信を無くしてしまうのです。
しかし意を決してのぞみ先生を呼び寄せ、2人でその階段を昇っていきます。2階の対角側、一番奥の席に先程の2人が座っています。遠目で、しかもバーの薄暗い照明ではあるものの、男性の顔をもう一度確認して僕は揺るぎない確信を得ました。やはりそうだ、違いない・・・!

↑暗くて顔は分かりませんが。
まさか韓国でチッチキチーの人に遭うなんて・・・!
いやぁ・・・。韓国に来て本当に良かった。フェアウェル・パーティーに出て本当に良かった。え?競技会の反省?負けた悔しさ?
すいません全部吹っ飛びました。
※このエントリーは、旧ウェブサイト内『丁野論』ページに掲載していた文章を、改訂・転載したものです。投稿の公開日は、過去に記事をアップした日に設定しております。
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