20040611


040609_代償
040610_代償2


人間は事故などの恐怖に直面した時脳内麻薬の分泌によって周囲の状況がスローモーションに見えることがあるという。
幸いにも自分はそのような体験はした事が無かったし出来ればしたくも無いと考えていたが、そのような状況とはどういったものだろうと興味は持っていた。
そして今回僕は危機的状況に遭遇したわけだが、世に言われているものとまったく違う不思議体験をしてしまった。

それはどういうものかというと


時間が消し飛んだ。


本当にその瞬間の記憶が無いのである。
僕の脳裏に焼きついている光景は、
テーブルの上に置かれたラーメン

足の上に乗っているラーメン


途中の記憶なし


どういうことだ。このラーメンがテーブルから足の上にまでどのようにやって来たのか、目の前で起きたはずの出来事を僕は見ていない。

新しい発見である。人間はあまりにも恐ろしい出来事に遭遇した場合、その瞬間の体験を消してしまうのだ。記憶からというより、意識から・・・。

その時の僕はおそらく放心していたのだろうと思う。
はっきり言って事故直後は体の感覚は麻痺していた。
思考も停止していた。
頭の中をめぐっていた物はこの期に及んでなお「ラーメンが食えなくなった。」という落胆だった程である。

やがて徐々に感覚が戻って来るにつれ、くだらないことを考えていた頭もハッキリしてきた。
なにか感じる・・・。

あつい。


てゆーか痛い。


意識の覚醒と共にとんでもない痛みが左足を襲う。
ヒリヒリと・・・いや、もはやそんな生易しいものではない。
大量の針で足を刺され続けているようだ。

待て、落ち着け。
冷静になって考えろ。
やけどだ。自分は火傷したのだ。
先程までぐつぐつと煮えたぎっていたお湯が俺の左足にかかったのだ。

しかし大丈夫落ち着け。

ラーメン屋でバイトしてた頃は火傷なんて日常茶飯事だったから慣れている筈であるしかも自分はもう立派な社会人であり大人だこれしきのことでうろたえてはいけない後輩たちの前で無様な姿を見せては今後の立場俺の印象が悪くなってしまうではないかこういう時こそ逆に「この程度の火傷平気だよ」なんて笑い飛ばして俺の豪胆さを見せつけてやれb痛いです。

笑い飛ばせません。


落ち着けません。


とりあえずジーンズを脱いだものの体力と気力を全て失った僕はその場に倒れこんだ。
酔っ払って百円のラーメンこぼして大事な商売道具の体に傷をつけるなんて・・・






ああ、これが夢であってくれ・・・。


>代償4につづく



※このエントリーは、旧ウェブサイト内『丁野論』ページに掲載していた文章を、改訂・転載したものです。投稿の公開日は、過去に記事をアップした日に設定しております。

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