そんなハリウッド映画をいくつも見ていると、逆に、アメリカ国民の意識、感情がどこに向いているのか読み取ることができます。最近5年間のアメリカ映画から受け取れるメッセージは、ずばり「労働者賛美」です。
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント (2011-02-23)
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実はこの「ラスベガスをぶっつぶせ」を見て、そんなことを考えました。以下その理由を考察しますが、内容どころか結末についても言及していますので、すでにこの映画を見た人、今後見るつもりがなくレビューだけを読みたい人(そんな人いるのか?)以外は、絶対に読まないでください。
以下、ネタバレあり。
【ストーリー】
マサチューセッツ工科大学の学生ベン(ジム・スタージェス)は、天才的な数学力をローザ教授(ケヴィン・スペイシー)に見出され、ブラックジャックの必勝法(=カード・カウンティング)を習得するチームに誘われる。進学したい大学への30万ドルという高額な学費を稼ぐためベンは仲間とともにトレーニングを続け、卓越した頭脳と巧みなチームワークを駆使してラスベガス攻略に挑むが――!?
(amazon「内容紹介」より抜粋)
ブラックジャックの攻略法として「カウント」というものは実在します。映画に詳しい人なら「レインマン」のダスティン・ホフマンと言えばわかるでしょうが、要は配られたカードを全て暗記し確率の高い手に賭けていく、というものだそうです。暗号を決めてチームでカードの内容を教え合い、最も計算力のある人間が勝負を打ちます。
映画も、実在したMITブラックジャックチームの話をもとに作られたそうです。まあストーリーや結末は脚色されてるのでしょうけど。
それでは、登場人物一人一人について、脚本上の存在意義を考えてみたいと思います。
まずはミッキー・ローザ教授(ケヴィン・スペイシー)についてです。彼は主人公の才能をスカウトし、ギャンブル必勝法を教えます。彼の手はず通り働く主人公は面白いように大金を稼ぎ続けますが、一度ミスをすると手の平を返され、クビにされ稼ぎも全て奪われてしまいます。主人公は教授に向かって、「皆はリスクをとってるのに自分は何もせず指示を出すだけで、稼ぎの半分を奪っていく」と非難します。この教授は何を表しているのか?それは「資本家」です。
教授は才能ある学生たちを集め(雇用)、カードカウンティングを教え(職業訓練)、変装用具や賭けの元金を提供(元手の出資)するという、まさに雇用主であり資本家の隠喩なのです。ちなみにそういう意味では、主人公から「自分は何もしてないくせに儲けをピンハネするな」と非難されるのは、資本主義のルールからすると全く的外れなのですが・・・。
続いては、カジノ荒らしを取り締まるコール監視官です。隠しカメラを穴の開くほど見つめ、直感と洞察力によってイカサマ・ギャンブラーを探す彼は、時代遅れで古いタイプの労働者として描かれています。しかも、生体認証ソフト(画像や声質から個人を特定するコンピュータ・ソフト)が発達したおかげで次々に仕事が減っているというエピソードは、機械やPCソフトに仕事を奪われているアメリカ失業者のイメージをも重ね合わせています。彼がイカサマを見抜くたびに誇らしげに言う、「これはソフトには見破れないだろ!」というセリフは、そういった失業者(とその予備軍)の声を代弁しているのです。
雇用主で資本家を意味するミッキー教授が、どんな結末を迎えるのか?ストーリー上は悪役であるはずのコール監視官は、なぜバッドエンドを迎えないのか?そこにこの映画のテーマと、観客が何を求めているのかが、如実に表れています。
最後に、主人公ベンについてです。教授が雇い主である以上、彼ら学生は当然労働者のポジションなのですが、主人公にはもう1つイメージが投影されています。それは、主人公とオタク親友のエピソードから解釈することができます。
主人公は、頭は良いがサエない親友3人で工学ロボットを製作し、ロボットコンテストでの優勝を狙っていました。遊ばず、ガールフレンドも作らず、自分の時間と楽しみを犠牲にしてコツコツと研究を重ねてきたのです。
ところが、楽して大金を稼ぐ方法を覚え、ゴージャスな生活とガールフレンドを手に入れた主人公は、ロボット製作に全く気持ちが入らなくなってしまい、親友グループから抜けることになります。そしてその後、たった一度のミスで稼いだお金と大学での単位、周りの信用の全てを失ってしまいます。
主人公が見捨てたはずのオタク親友たちは、その後も地道な努力を続け、見事ロボットコンテストで優勝します。主人公は、浮かれた生活に目がくらんだことを反省し、親友に自分の裏切りを詫びるのです。
このエピソードは、ものづくりを放棄し安易なマネーゲームで資産を増やそうとして、手痛いしっぺ返しをくらった、アメリカそのものを表しているのではないでしょうか。ブラックジャック攻略法は、数字を「カウント」するだけの金融業とみる事ができるし、一夜にして全てを失う主人公の姿は、リーマンショックなどのバブル崩壊を彷彿とさせます。
あくまで僕の解釈ですが、しかし、主人公が友人たちと製作していたロボットが何であったのかが、この解釈が決して根拠のうすい憶測ではないことを証明しています。それはGPSによって自動走行する車、自動車であり、アメリカものづくりの象徴たる自動車産業のメタファーなのです。
自分たち労働者を酷使しミスしたら解雇、地道なものづくりを捨て数字をカウントするだけの虚業で稼ごうとする、そんなひどい資本家たちは制裁を受けてしまえ。最後に笑うのはコツコツ頑張ってきたアナタたち労働者ですよ、という裏メッセージで、観客におおいに溜飲を下げてもらおうというのです。
この映画が、アメリカでは2週連続興業1位を記録する一方、日本での評価がいまいちなのは、そんなことと関係あるのかもしれません。
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