前回の説明にあったように、現在世界的に普及している競技ダンス(インターナショナル・スタイル)は、イギリスを中心に体系化されたものです。そしてそれらの中には、元来の形とニュアンスを変えてしまったものも少なくありません。
例えばキューバを中心に発展したチャチャチャ、ルンバなどは、本来とは大きく形式を変えてしまいました。ルンバなど、名前は同じでもキューバで踊られているものとは全く違うダンスなのです。他にも、アルゼンチンにルーツを持つタンゴも、本来の物とヨーロッパで踊られるものでは相当趣を異にします。
現在、本来のラテン音楽や舞踏をされる方々から、社交ダンスが批判を受ける事も少なくありません。曰く、「社交ダンスのラテンは、ラテンではない。」「社交ダンスのタンゴはアルゼンチンタンゴとは、別物だ。」こういった意見は全く妥当であり、それは、ボールルームダンスが独自に発展を遂げた事に起因します。我々が踊っている『ラテンダンス』はイギリス経由で伝わった、『ラテンダンスと似て非なるもの』なのです。
誤解を恐れずに言えば、こういった状況はカレーライスの出自と非常に酷似しています。インドには元来『カレー』という料理は無く、肉や魚、野菜などの食材を様々な香辛料を使って調理していたに過ぎませんでした。インドを植民地として統治したイギリスが、本国へインド料理を紹介するに当たり、多種類のスパイスをミックスし使い易くした物が発売されました。これがカレー粉の起源であり、『カレー』という料理の誕生です。
カレーの名誉の為に、インド生まれでない事がカレーの価値を減ずる理由にはならない、という意見を付け加えておきましょう。同様に、社交ダンスのラテンも、本場の舞踏に劣等するものではありません。両者は異なった発展を遂げたもの、という認識を持つべきであり、どちらが優れているという事ではない筈です。
カレーもラテンダンスも、ヨーロッパ各国の植民地政策の産物と考えると、もの悲しい趣があります。
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第1話『カレー勝負』は、「カレーとは何か?」「カレー粉とは何か?」という真理にせまる傑作。
※このエントリーは、旧ウェブサイト内『丁野藝』ページに掲載していた文章を、改訂・転載したものです。投稿の公開日は、過去に記事をアップした日に設定しております。
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