20050530

すベてがFになる (講談社文庫)
森 博嗣
講談社
売り上げランキング: 3623
★☆☆☆☆

著者は現役工学部助教授で、本書を以って理系作家と称されるほどに、コンピュータ的発想をふんだんに盛り込んで構成されたミステリー。著者のデビュー作であり犀川助教授と西之園萌絵が出て来るS&Mシリーズ1作目。

数学的視点によるトリックや描写をミステリー小説に取り入れるという手法は真新しく、この理数系の世界観がコンピューター好きや数学マニアに好まれるようである。それでもストーリーの重要な部分やトリックそのものは専門知識が無くても理解出来るようになっていて、コンピューターが苦手な人でも充分に楽しめる。

本書は講談社の第一回メフィスト賞を受賞、著者はその後新本格派の作家の一人として活躍していくことになる。同じく新本格派作家として称えられる一人に僕の大好きなあの京極夏彦がいるのだが、京極の人間の精神を追求するような奥深いミステリーに比べると、いささか稚拙に感じる心理描写や文章表現が物足りないのではあるが。

いや、物足りないどころかどうしても納得いかない。京極を比較対照に挙げるのは安易な物差しだとしても。

以下、ネタばれ(っつーかトリックについて)含む文章なので、読みたい人は反転させてご覧下さい。






幼少の頃から天才数学者として最先端のプログラム開発の仕事をする真賀田四季博士。判断力、洞察力、全てに於いて頭脳明晰、他人を掌で転がせるほどの人身掌握術。もう、パーフェクトな犯人像!誰も彼女のトリックを破れる筈がない!


そんな天才が10年以上の歳月をかけて計画、準備した犯行トリックが、


皆が死体に気をとられてる隙にその後ろから逃げる。


どーいう事だこらぁ!

ちょっとでも振り向いたらどうすんの?

死体に気をとられない奴が一人でもいたらどうすんの?


ああ、納得いかない。。。



理数学だろうが妖怪だろうが、何がツールであろうとも文学なんて結局人間を描くもの。ましてミステリーのトリックは如何に読者の精神的盲点を突くか、に係っているのだから、その味付けは丁寧に書き込んで欲しいところだ。まして文学的要素の部分まで合理的無機的にされては、ちと感情移入しづらいというものだ。



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京極夏彦は大好きなのですが、読み始めるには断固たる決意が必要。なぜならものすごく長くて時間がかかるから・・・。


※このエントリーは、旧ウェブサイト内『丁野論』ページに掲載していた文章を、改訂・転載したものです。投稿の公開日は、過去に記事をアップした日に設定しております。

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