20110729

さて本日は、「囚人のジレンマ」というパラドックスについて、触れてみたいと思います。ゲーム理論における代表的モデルとしてよく挙げられるので、ご存知の方も多いと思います。以下、解説を記載しておきます。


「囚人のジレンマ」解説

共同で犯罪を行った2人が捕まり、別々の牢屋に入れられた。警官は2人の囚人に自白させるため、それぞれの牢屋を順に訪れ、自白した場合などの司法取引について以下の条件を伝えた。

  • 2人とも黙秘した場合、2人とも懲役2年
  • 相手が黙秘し自分だけ自白した場合、自分は懲役1年。ただし相手は懲役15年
  • 逆に相手が自白し、自分だけ黙秘した場合、自分は懲役15年。相手は懲役1年
  • 2人とも自白した場合、2人とも懲役10年

《補足条件》

  • 2人は双方に同じ条件が提示されている事を知っているものとする。
  • 2人は別室に隔離されていて、2人の間で強制力のある合意を形成できないとする。

このとき、囚人は共犯者と協調して黙秘すべきか、それとも共犯者を裏切って自白すべきか、という問題。

囚人2人にとって、互いに裏切りあって10年の刑を受けるより、互いに協調しあって2年の刑を受ける方が得である。しかし囚人たちが自分の利益のみを追求している限り、互いに裏切りあうという結末を迎える。なぜなら囚人Aは以下のように考えるからだ。


  1. 囚人Bが「協調」を選んだとする。このとき、もし自分 (=A) がBと協調すれば自分は懲役2年だが、逆に自分がBを裏切れば懲役は1年ですむ。だからBを裏切ったほうが得だ。
  2. 囚人Bが「裏切り」を選んだとする。このとき、もし自分 (=A)がBと協調すれば自分は懲役15年だが、逆に自分がBを裏切れば懲役は10年ですむ。だからBをやはり裏切ったほうが得だ。

以上の議論により、Bが自分との協調を選んだかどうかによらずBを裏切るのが最適な戦略(支配戦略)であるので、AはBを裏切る。囚人Bも同様の考えにより、囚人Aを裏切ることになる。

よってA、Bは(互いに裏切りあうよりは)互いに協調しあったほうが得であるにもかかわらず、互いに裏切りあって10年の刑を受ける事になる。合理的な各個人が相手の行動を所与として自分にとって「最適な選択」(裏切り)をする結果、全体としては「最適な選択」をすることが達成できないことがジレンマと言われる所以である。

参考:wikipedia 「囚人のジレンマ」


解説終了



わざわざこんなものを掲載したのは、別に逮捕された時のために口裏合わせをしておきたい訳ではなく、この思考実験が実社会の様々な状況をモデル的に説明しているからです。核兵器開発や値下げ競争などの例が、それに当たります。

ダンス界に林立する大小様々の組織、例えば現役選手会や競技会運営団体などですが、永らくその構造改革が叫ばれてきました。しかし、世が大不況に陥り組織存続が危うくなる事ここに至ってもなお、体質は改善される気配を見せません。傍から見ればきわめて単純なシステム変更さえ、手間取る始末です。

まあこれはダンス界に限らず、他業界や果ては国家レベルにまで言われている事ではありますが、それにしてもなぜ、集合体は合理的な意思決定ができないのでしょうか?

その答えのヒントとなるものが、「囚人のジレンマ」に代表される「ゲーム理論」に含まれています。個人単位でこういった矛盾性を理解することが、均衡により窒息寸前の組織に風穴を開け、ダンス業界に改革をもたらす第1歩となるでしょう。



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※このエントリーは、ダンスblog『Happy Dancing』に掲載していた文章を、改訂・転載したものです。投稿の公開日は、過去に記事をアップした日に設定しております。

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