20090408

040819_鉄人

ようやく熱気も冷めて来たWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)ですが、それでも侍ジャパンの活躍や日本中の興奮は未だ記憶に新しいところです。

ドラマの立役者がイチロー選手その人である事に、疑う余地は無いでしょう。代表合宿中のファンサービス・パフォーマンスに始まり、大会期間中の絶不調、最後の大逆転、大会後の歓喜と安堵。もともと、全スポーツ選手の中でも最高に華のある人物ですが、本人もその自覚を持ち、世界中の注目に真っ向から立ち向かい受け止めるべく、戦っている様に見えます。

そのプレッシャーたるや、「凄い」という形容も憚(はばか)られるほど凄絶を極めるのでしょうが、そんな事を考えていたら、何とあのイチローが潰瘍で故障者リスト入りになってしまいました。彼のキャリア初となる大事件です。

イチロー選手の事を初めて知ったのは高校生の頃だったと思うのですが、以来、野球に興味の無い僕すらが彼のプレー、生き方、考え方に多大なる感銘を受けてきたものでした。弱冠二十歳そこそこ、飄々(ひょうひょう)とした好青年という印象でしたが、そんな彼がモンスター級の記録を次々に打ち立て日本中を熱狂させる様は何とも痛快でした。あと安打1本で記録を塗り替えるという試合で3,4本のヒットを事も無げに放ち、父と2人でその豪胆に舌を巻いた記憶があります。

野球に対して、というよりは人生に対して真面目で真摯。強い責任感と自己抑制力を持ち、一方でファンを楽しませるユーモアや融通をも持ち合わせる。スポーツ選手の枠を超え、全てのプロフェッショナルの理想像、最も完成された人間の1人であり、鉄人の中の鉄人です。それはもはや奇跡の人といってよいレベルでしょう。

そんなイチロー選手が不振に喘ぐ様子は可哀想ながらも、ある意味ホッとするものもあり、「ああ、完璧に見えてもやはり彼も人間なんだな」と思っていました。そしたらあの感動的な2点打ですから、「やっぱり超人はスランプになっても超人だ、造りの違う人間だ」となってしまった訳です。

そこへ来てまさかの潰瘍による欠場のニュース。極度のストレスの中で戦った後遺症という事なのかもしれません。二転三転しつつも、結局は彼も同じ人間でした。

出来が違う、と一瞬でも思った自分が恥ずかしい。彼もまた、1人の人間として限界に挑戦しているのですね。



※このエントリーは、旧ウェブサイト内『丁野論』ページに掲載していた文章を、改訂・転載したものです。投稿の公開日は、過去に記事をアップした日に設定しております。

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